青色申告について

記帳

前節引用の「名人伝」は私達の生活のうえでの沢山の教訓を含んでいます。その一つにこの小説のどこにも出て来るわけでもありませんが「人の言葉を信じ実行すること」の凄まじいまでの威力のことをお伝えしたく引用したわけです。師の言を信じ目の訓練に数年を費やし、師の飛衛を凌駕する天下一の弓の名人に成る。弓を志す幾多の中にあって、紀昌一人名人となった、ただ一つの鍵は「師を信じることが出来た」ことだったと考えたからです。「人を信じ実行に移す」ことは、今も昔も稀な出来事なのでしょう。弓を習うに弓をもってせず、これもまた重要な教訓の一つでしょう。紀昌はその晩年「射る」に弓をもってせずの境地に達し、その「道具」の名前すら忘れてしまう。弓とは単なる手段に過ぎないことを暗に示しているのかもしれません。

 

複式簿記もまた単なる「経営」の手段に過ぎません。そしてまた、簿記を行うのに簿記を習ってはいけないのです。複式簿記のために信じて実行して欲しいことは前節述べた次のことです。おさらいしますと

  1. 二つの通帳以外の普通預金通帳は絶対に持たない。
  2. 金の動きは漏らさず全部「事業用通帳」を通す。
  3. 「事業用通帳」より一定額を生活費として「家計用通帳」に振替える。
  4. 「家計用通帳」から イ). 生活費に充当 ロ). 小口の事業の必要経費の立替。
  5. 前記ロ、の小口の必要経費の領収証は支出の科目ごとにスクラップブックに貼って保管。

これで99%複式簿記は成功です。この方法による「複式簿記の成功」は、「経営の成功」と「節税」、そして何より「家計の健全」とが同時達成可能なのです。「経営の成功」はさておき、ここでは「節税」と「家計」について述べてみます。

 

 

節税

複式簿記の大きな目的は、青色申告特別控除65万円とその他の特典の適用にあります。ここをしっかりとキープしましょう。所得税法も法律ですから、法律要件を定め、事実が法律要件を充たすと法律効果を生じる構成となっています。青色申告特別控除65万円の適用の要件は図に示した通りです。所得税法では明記されていませんが、複式簿記の優れた点の一つは、「試算表」で記帳の正しさを証明することが出来ることです。逆に試算表が合っていなければ複式簿記になりませんから、この作成は必須事項となります。日常の記帳の範囲を事業用通帳一冊に絞ることで、試算表の作成が格段に簡単になります。この帳簿は、複式簿記として青色申告の要件を余すことなく充たしていますから、税務署から否認されることはありません。ここまで出来ていると、更正については、不服審判所に直接審査請求することが出来ます。

 

 

家計

ところで、個人の事業主は、企業としては収益を上げる者であると同時に、上げた利益を消費し生活をする者でもあるわけです。事業と家計の分離が、個人企業の最大の問題点であり、難しいところでもあるのです。この根本的な解決は会社を作り、会社に所得を上げる方を任せ、そこから給与の支給を受け生活費を賄うのが一番良い方法です。しかし、むしろ個人事業を利点と考え「事業用通帳」から国保・国民年金や共済掛金のような生活費を落とすなど、家計分析まで出来るように工夫しておきます。また、前述の「家計用通帳」から下ろした現金で小口の事業支出を立て替えることで毎日現金を数えることの重荷から開放されます。一見事業と家計が混同しているように見えますが「事業主貸」「事業主借」の差し引きで「生活費の総量が計算出来る」状態になっていますからこれで、事業と家計の完全な分離が出来たことになります。あえて会社にしなくても帳簿上で事業と家計の分離計算が出来、ほぼ同じ結果が得られます。同時に家計簿の省略も出来るのです。